愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
それからまた、時が流れ、9月の声を聞いた。


由夏の予言は外れ、長谷川からのコンタクトは全くなくなった。菅沼さんとは、一軍と二軍でバラバラになって、あんまり連絡は取っていないが、たまにデートの報告が来るので、まぁ順調なんだろう。


その一軍は、名将野崎監督の2年目。野崎イズムがチームに浸透して来たともっぱらの評判で、ここ数年低迷して来たチームが、久々に優勝争いに絡んで、仙台スタジアムのボルテージは、最高潮のようだ。


その輪に加われないことには、正直忸怩たるものがあるが、実は俺達二軍も、激しい優勝争いを演じていた。


一軍と違い、二軍は育成の場。勝利よりそちらが優先されるとはよく言われるが、二軍だってプロ。勝敗を度外視するなんて、あり得ないし、目の前にある栄光を逃したくはない。


二軍とは言え、俺にとってはプロに入ってから初めてのチームの優勝のチャンス。まして、俺は今、チームの主戦キャッチャーの立場にいる。プレッシャーもあるが、張りのある毎日を過ごしている。


その一方で、俺達二軍の選手には、憂鬱な季節が近付いて来ていることも、また自覚している。


シーズンが終われば、すぐに来季の契約の話が出て来る。今、共に戦っている仲間達が、来季も全員同じユニフォームを着られることだけは、絶対にない。


二軍のレギュラーキャッチャーの座は手中にした今の俺だが、それでも今シーズン中に一軍に呼ばれることは、よっぽどのアクシデントでもない限り、なさそう。


即戦力を期待される大卒ながら、3年間、一軍に1度も登用されることなく、シーズンが終わろうとしている。過去の例を見ても、首筋が寒くなる立場に立たされても不思議はない。


残りのシーズンで、なんとか自分をアピールして、生き残らなくてはならない。その意味でも、毎日が必死だ。


優勝の行方は、結局シーズン終盤までもつれたが、結局2位チームとの直接対決を制したウチのチームが優勝。一軍と違い、ビール掛けこそなかったが、監督を胴上げして、歓喜の時を過ごした。


「この優勝は、お前のお陰だ。」


新田コーチはそう褒めてくれたし


「お前、一皮剥けたな。よう、やった。」


いつも俺に厳しいことばかり言う小谷さんが、そんなことを言ってくれたのは嬉しかった。
< 195 / 330 >

この作品をシェア

pagetop