愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
年明け早々の私を待っていたのは、来季の秋冬物のデザインのプレゼンだった。


そう私達JFCのデザイナーは、もう無条件に、創り出したデザインが商品化されるわけではなくなった。


ライバルに勝ち抜いて、本社のバイヤーさんに、そのデザインを買ってもらわない限り、その存在価値はないのだ。


私は、希と一緒に市場の動向を探り、海外からの情報にアンテナを張り、ブティックを歩いた。


まだ、聡志以外には誰にも話していないけど、これがJFCで手掛ける最後のデザイン。ううん、ひょっとしたら、デザイナーとしての最後の仕事になるかもしれない。仙台に行ったら、私は聡志を支えることに専念するつもり。だからこそ、どうしても、今回のデザインを商品化して、世に出したい、残したい。


そして、あとを託すことになる希に、たった3年間かもしれないけど、私が得た知識、経験、その他諸々のことを全て伝えたい。


私は、意欲的に、充実した時間を過ごしていた。


プレゼン前日。私は平賀さんにサンプルを提出した。


「この5点か?」


「はい。少ないと思われるかもしれませんが、あえて自信があるものに絞りました。」


私のコンテを、パタンナーの渡辺さんが渾身の仕上げで、素敵な服にしてくれた。まだ見ぬライバルのそれにも、絶対に引けをとらないつもりだ。


「既にプレゼンが終わった連中の話を、聞いても、バイヤー連中も自分の首が掛かっているから、シビアに見て来ると言ってる。まして、相手は玲さんだ。身贔屓は絶対に期待出来ないぞ。」


「はい、覚悟してます。」


頷く私に


「良く出来てると思う。俺の方から言うことは何もない。明日は自信を持って、臨んでくれ。」


平賀さんは、そう言ってくれた。


「ありがとうございます。」


そう答えて、私は部屋を出た。


当日は、私の直属の上司であるはずの岡嶋さんは


「私はミドル・ミセスの方があるから、由夏に任せる。」


と同席すらしてくれなかった。もっとも、こちらも全く当てにしてなかったので、私は希を連れて、商談室に乗り込んだ。


この日の井上さんは、にこやかだった。私の持ち込んだサンプルを見て


「あっ、これいい。私、着てみたいな。」


なんて言ってくれたのは、初めてだった。和やかなうちに、プレゼンは終わり、私達は部屋を出た。


「井上さん、今日はやけに、優しかったですね?」


そんなことを言って来た希に


「たぶん、もう私達を身内だとは思ってないからだよ。あくまで『お取引先』の1つと思えば、物腰だって柔らかくなる。今までのように、ズケズケと言ってもらえた時の方が、私達にはむしろ良かったんだよ。」


私は厳しい表情で言った。
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