愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
それは1年ぶりの光景だった。一面いっぱいに広がる青い海、そして空。今年もこの美しい景色に迎えられて、Eは、沖縄の離島にある春季キャンプ地に降り立った。


空港に降り立ち、地元のみなさんの熱烈な歓迎を受けると、今年も始まったなと、身の引き締まる思いがする。


歓迎式典が終わり、宿舎に入って、荷物整理、風呂、夕食を済ませた後、俺達二軍選手は、一軍の宿舎に移動した。


明日からのキャンプインを前に、野崎一軍監督の「施政方針演説」を拝聴する為だ。


「野球は頭のスポーツ。」


が口癖の監督は、キャンプ中の夜は連日、選手をミーティング漬けにするので有名なのだが、今日は今年のチームの方針を説明する為の集まりで、我々二軍も招集された。


マスコミも入った公開ミーティングとなったこの日、野崎監督は


「去年、一昨年、私はこの場で、今年は優勝を目指すとは口が裂けても言えなかった。チームがとてもそんなレベルにないことがわかってたからや。だが今年は違う。一昨年蒔いた種が昨年、芽を出し、いよいよ今年、花を咲かせる時期となった。ハッキリ言うぞ。今年は優勝や。Hの壁は高いが、もう決して乗り越えられないものじゃなくなった。もう1度言う、今年の目標はリーグ優勝。それしかないからな。」


冒頭から、こうぶち上げた監督のテンションは高く、約1時間に渡って熱弁を奮ったが、最後に


「ついつい熱が入ってしまって、時間オーバーになってしまったが、最後に1つ。おい、二軍の連中。」


と俺達の方に視線を向けた監督は


「今年、私の前任監督である前田くんを、わざわざ二軍監督に招聘した理由をよく考えてくれ。そして前田くんが、いわば降格人事となるにも関わらず、快くチームに戻って来てくれた気持ちを受け止めろ。お前らの底上げ、成長なくして、チームの勝利はない。いいな、塚原、聞いとるか?」


「は、はい。」


いきなり名指しされて、驚く俺を尻目に


「もちろん塚原だけやない。お前ら、今年はチャンスや、そしてあとのない崖っぷちや。全員、心して臨め。以上。」


と締めて、ミーティングは終わった。


このあとは、門限までは自由時間。とは言っても、明日からに備えて、英気を養おうとする選手が多く、二軍選手もほとんどがバスで宿舎に戻ったが、俺は残った。ある人に会う為に。
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