愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
由夏の言葉は正直ショックだった。会えなくなったのは、もちろんだが、あいつが仙台に来てくれる話が、当面延期というのは、やっぱり堪えた。


それでも、それを嘆いたり、ましてあいつを責めるなんて言うのは、当たり前だが、話が違う。


俺が寂しく辛いように、由夏だってきっとそうだろう。それに、そんな状況を放り出して、自分のことだけを考える由夏を、俺も望んではいない・・・なんて言うのは、いささか恰好つけ過ぎか?


とにかく由夏が沖縄に来ようと来られまいと、仙台に来てくれる時期が遅れようと遅れまいと、時は待ってくれない。今の俺のやるべきことは、自分の野球選手としての居場所を掴むことだけだ。


紅白戦当日。試合前にピッチング練習をしていると、ひょっこり小谷コーチが顔を出した。


「おぅ、来たか。」


「はい、よろしくお願いします。」


「知らんがな。俺は白組のピッチングコーチだ。」


「じゃ、こんな所に堂々と入って来ないで下さいよ。」


「敵情視察だ、悪いか。」


「だから、少しは遠慮して下さい。」


そんな軽口を叩き合っていると、キャッチャーの醍醐さんが吹き出した。


「相変わらず、仲がいいな。塚原、小谷さん、お前がいなくて、ずっと寂しそうだったぞ。」


「えっ?」


「アホ、そんなことあるか。一軍には、こいつみたいな、手の掛かる奴がおらんから、せいせいしとるわ。」


と吐き捨てるように言うと


「聡志、せいぜいお手並み拝見させてもらうからな。」


そう言い残して、ブルペンを出て行く小谷さん。


「お前のことが、心配で仕方ないんだな、小谷さんは。」


「そうなんですかね?」


「あの人は、お前に惚れ込んでる。それはお前が一番よくわかってるはずだ。」


「はい。」


「今、受けた限り、調子は良さそうだな。ピシャッと抑えて、小谷さんを安心させてやれ。」


試合前の練習に付き合ってくれてるように、今日は醍醐さんが俺の球を受けてくれる。一軍のレギュラーキャッチャーに試合で受けてもらうなんて、当然初めて。


ちなみに白組の先発ピッチャーは川上。同期入団ながら、1年目から頭角を現し、ずっと俺の遥か前を歩いて来た男。


そいつと紅白戦とは言え、投げ合うことになった。俺の体内のアドレナリンはいよいよ、みなぎるばかりだ。


「時間だ。さぁ行こう。」


「はい。」


醍醐さんに促されて、俺はブルペンを出た。
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