愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
「でも、実際に先輩を打席に迎えた時の聡志の表情、凛々しかった。」


「由夏・・・。」


「そして、監督が敬遠を指示した時も、ホッとするどころか、悔しそうにまず監督を、次に先輩を睨んでいた。あの姿を見た時、『あっ、聡志は逃げたくなかったんだ。勝負したかったんだ。』って思って、私は嬉しかった。これなら、聡志は絶対に一軍に残れるって、私、あの時に確信したよ。」


って、一気に言った私を、少し見つめていた聡志は


「そっか・・・気持ちで負けちゃダメだと思ってたからな。ま、由夏にそう思ってもらえたんなら、素直に嬉しいよ。」


と言うと、少し照れ臭そうに笑った。


「それに、現実的なことを言うと、試合は俺の後に投げたピッチャーが打たれて、逆転負けした。そのピッチャー、試合後、二軍に落とされたよ。」


「えっ、本当?」


「アイツが抑えてたら、たぶん俺が落とされてたと思う。だがお陰で、なんとか生き残って、もう一回、チャンスを貰えそうだ。勝負事って言うのは、そういう巡り合わせというか、ツキも大切だからな。」


という聡志の言葉に、私は肯かされていた。


料理はイタリアンのコース料理。おいしかったんだけど、こういう洋食を食べると、つい堀岡さんとこの料理と比較してしまって・・・。


「そりゃ、あそこの料理と比較しちゃ、可哀想だよ。」


と聡志は笑う。そして、私達はこのあとも、いろんな話をした。


「そう言えば、今日、沖田くん来てた。」


「えっ、マジ?」


「うん。試合が終わってから、遠くにいたのに気付いただけだから、声も掛けられなかったんだけど。」


「そうか、アイツ来てくれてたのか。でもそれじゃ、桜井とは・・・。」


「当然、話なんか出来ないよ。」


「それは残念だったな・・・。」


沖田くんは、昨年いっぱいで、勤めていた会社を退職してしまった。


彼は、結果として、加奈を弄んで捨てた形になった相手の男を、どうしても許せずに、話をしに行き、勢い余って、暴力を振るってしまった。と言っても、実際にはちょっと相手に触れてしまったくらいで、相手も大事にするつもりは全くなかったんだけど、公道での出来事で、警察沙汰になってしまったことから、責任を取ったのだ。


加奈に裏切られたにも関わらず、加奈を未だに思い、そんなことまでしてしまった沖田くんと、沖田くんを傷つけた上に、そんなことをさせてしまったことに、激しい罪悪感と後悔を感じている加奈。


「私、加奈に説教しちゃった。お互いに逃げてるって。逃げないで、ちゃんと向き合いなよって。」


「そうだな、結局それしかないんだよな・・・。」


私の言葉を聞いた聡志は、ポツンとそうつぶやいた。
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