愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
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本当は、ずっとそうしていたかったけど、そうもいかない。


頷き合って、身体を離すと、私は携帯を取り出した。


戻って来られた堀岡さん夫妻に、お陰様で、ちゃんと仲直り出来ましたって、2人並んで報告すると、本当に喜んで下さった。


「2人が別れちゃうなんて、あり得ないと思ってたから。よかった、本当によかった。」


そう言ってくれる奥さんの横で、マスターも柔和な顔で頷いている。


「塚原くんだけじゃなくて、デートで彼女さんを連れて来てくれる選手は何人もいるんだけど、ウチはご覧の通り、狭いし、オシャレでもないし。中には『なんで、こんな所に連れて来るの?』みたいな雰囲気を出す子もいるの。でも由夏ちゃんは、全然そんなことなくて、お出しした料理を全部美味しそうに、嬉しそうに、食べてくれて、『ご馳走様でした、とっても美味しかったです。』って、素敵な笑顔で言ってくれて。私も主人も、いっぺんに由夏ちゃんのファンになっちゃった。だから、由夏ちゃんが、もうウチに来てくれなくなっちゃうなんて、我慢出来なかったから・・・出しゃばらせて貰っちゃった。」


そんな、私達の方こそ、こんなにしていただいて、お礼の言葉もありません。


私達は何度も何度も頭を下げて、近々また伺わせていただきますと言って、堀岡亭を後にした。


「お前、スゲェな。なんか俺まで、鼻高くなったんだけど。」


「私は美味しかったから、美味しいって言って、嬉しかったからニコニコしてただけなのに。あんなふうに言っていただいちゃって、なんか恥ずかしいよ。」


そんなことを話しながら、手を繋いで、私達は駅に向かう。仙台ではスーパー・・・かどうかはともかく、それなりのスターである聡志が、白昼堂々と女子と手を繋いで歩く姿は、結構人々の耳目を引いたけど、聡志も私も、もうそんなことは全然気にしてなかった。


新幹線を乗り継いで横浜、更には在来線で地元へ。今朝、家を出た時は、どうなるんだろうって、不安いっぱいだったけど、ずっと繋いでいる手から、確かに聡志の存在が伝わって来て、嬉しい。


でも一方の聡志は、段々顔がこわばって来てるのがわかる。


「自分の実家に帰るのに、こんなに緊張する羽目になるとは・・・。」


そんなことをポツンと呟く聡志がちょっと可哀想になるけど、ま、仕方ないか。
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