猫になんてなれないけれど
笑顔が柔らかくて明るくて、休日は、犬と一緒に海辺で戯れているような。


(・・・って、完全に祥悟のことじゃない・・・)


思い出して、胸がぎゅっと痛くなる。仕事中は、絶対に考えないって決めたのに。

その時、「チーン!」と、エレベーターが1階に到着する音がした。

コツコツ、という足音が徐々に近づいて、私たちのいる受付に、眼鏡をかけたスーツ姿の冨士原さんが現れた。

「遅くなって申し訳ありません。急ぎの電話があったので」

真面目な顔で説明をする冨士原さんに、永田さんと天川さんは大きく首を横に振る。

「全然大丈夫ですよ~!楽しくおしゃべりしてたので」

「そうそう!気にしないでください」

笑顔で話す受付2人は、言葉に全く嘘がない。もし、今より30分遅くなっていたとしても、冨士原さんのためなら同じく笑顔で対応するだろうと思った。

冨士原さんは会釈をすると、永田さんが用意した領収証を確認し、診察代金を支払った。

そして、「ありがとうございました」と立ち去ろうとした時に、診察室のドアが開いた。

「大和ー。今度はちゃんと、倒れる前に来るんだぞー」

クリニックの院長である、相澤先生が診察室から顔を出す。

そして受付の場所まで歩いてくると、冨士原さんの肩をポン!とたたいた。

「今日だって、倒れる前に来てるだろ・・・」

冨士原さんは、めんどくさそうな顔をする。

「オレがしつこく何度も連絡したからだろーが。いつかみたいにぶっ倒れるなよ」

「・・・どれだけ昔の話をしてるんだ。あんなヘマはもうしない」

冷えた口調で呟くと、冨士原さんは受付にいる私たちに会釈して、相澤先生には右手をあげてクリニックの外に出て行った。

スラリと高い後ろ姿を眺めていると、相澤先生が「はー」と大きな息を吐く。
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