王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました

一方ナサニエルは不機嫌さを隠そうともせず、カイラを自らの背に隠すように侯爵との間に立った。

「侯爵、私の妻をどこへ連れていく気だ」

侯爵は呆れたように笑って見せる。

「陛下、誤解なさらないでいただきたい。実はアイザック殿の目撃情報を得たのですが、どうも記憶をなくしているようで……。御母堂のカイラ様に確認していただこうとお連れするところです」

「アイザックが見つかったのなら、連れてこれば良かろう」

「本人が望んでいないのですよ。記憶がないことで、助けてくれた人間たちしか信用していないようです」

しれっと答える侯爵をナサニエルが睨みつけると、彼はふっと口もとを緩めた。

「やれやれ、我が妹にもそのくらいの執着をお見せくださればいいのに」

マデリンを引き合いに出され、ナサニエルが軽く反応する。が、一瞥しただけでそれに関してはそれ以上語らなかった。「どこに向かうのだ?」と、カイラに視線を送った後、侯爵に向かって問いかける。

「北にあるカラザの街です。アイザック様の目撃情報を持ってきた男を御者としてつけております。私は執務がありますので、他に護衛ふたりをつけて送り出すつもりだったのですが」

「……私が一緒に行こう。護衛はこちらで用意する。カイラ。出発を一時間遅らせるんだ」
< 123 / 222 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop