王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました
「一時間、調べものに時間をいただきたいのです。その間、コンラッド殿下は講義を受けてらしてください。その後でよければ、お付き合いしますわ」

妥協案を提示すれば、コンラッドはぱっと顔を晴れ渡らせた。

「では、一時間後、図書館に迎えにいくからな!」

うきうきと立ち去る彼を見て、クロエは呆れてものも言えない。
あれがやがて国王になると思えば、嫌いな男だがアイザックの方がマシではないかと思ってしまう。

(……結婚なんてしたくないわ)

アイザックとの婚約の話が来たとき、兄であるケネスは手放しで喜んだ。

『これでアイザックが俺の弟になるのか。悪くないね』

その楽しそうな表情に、クロエは苛ついたのだ。
クロエは重度のブラコンである。この世のすべての男性の中で一番ケネスがよく見えるし、なぜ兄妹に生まれついてしまったんだろうとも思うし、その反面、兄妹だからこそ見せてくれる表情が嬉しくもあった。
兄の望む相手と結婚して、この大切な兄妹の絆をおろそかにされるのは耐えられない。

『申し訳ありませんが、アイザック様はお断りですわ。私の子に、異国の血が入るのはごめんですのよ』

クロエは本気で種族蔑視をしていたわけではない。ただ、体のいい断り文句だっただけだ。
しかし、その言葉は当然アイザックの不興を買ったし、兄にもやんわりと諭された。
それでもその後から、兄がクロエが何を言い出すかと心配してついて回ってくれたので、クロエは満足だったのだ。

「……コンラッド様ねぇ」

兄の望まぬ相手と結婚すれば、彼はいつまでも自分を心配するだろうか。
ふと頭に沸き上がったそんな考えはろくなものではなかったが、クロエの頭の隅にいつまでも残ることとなった。




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