ボードウォークの恋人たち


そしてそれは私が高3の冬だった。

ハルはまだたまにうちに泊まりに来ていた。
あんまり顔を合わせることはなかったけれど。

お風呂上りにパジャマで髪を拭きながらリビングにいたら、酔っぱらった兄とハルが帰ってきた。

「酒臭い」

顔をしかめた私に「いいだろー、俺の卒業が決まったんだから祝杯上げてきた」とご機嫌な様子の兄。

「ハルはまだ国家試験が終わってないじゃない。いいの?こんなのに付き合って遊んでて」
一緒になってご機嫌な様子のハルに声をかけた。
不肖の兄のせいで国試に落ちたら申し訳ない。

「ああ、俺は大丈夫。心配してくれてありがとう、水音。それに・・・久しぶり」

「え、ああうん。久しぶり」

「水音は受験勉強頑張ってるんだって?」

「まあね。この間の模試A判定だったし。でも油断しないで頑張るけど」

久しぶりに顔を合わせたハルはまた少し大人になっていて、酔った顔には色気が増していた。

「A判定か。偉いな、水音」

ハルはにへらっと笑って昔のように私の頭に手を伸ばしてきた。途端に臭う。ハルの身体からお酒以外の女性ものの香水の香り。

「やめて」
咄嗟にハルの手を払いのけて後ろに下がった。

「ハル、くさい。女の人の匂いがべったりついてる。気持ち悪い、私に触らないで。早くお風呂に入って」

言い捨てて私はリビングから飛び出した。
ハルの女癖の悪さは変わらないらしい。もう24才になるというのに。


ーーーーそれがハルを見た最後だった。あの時ハルがどんな顔をしていたのか知らないし、どんな気持ちになったのかも知らない。

しばらく顔を見ないなと思ったら留学したのだと兄が言っていた。

どこに?いつまで?と聞いても兄も詳しくは聞いていないという。2年くらいで帰ってくるかと思っていたら・・・3年たっても帰ってこなかった。

そのうち私は大学の看護学部を卒業して国家試験も無事にクリアして看護師になっていた。

ナースになることを反対していたお父さんとの約束はナースになることを認める代わりに就職は二ノ宮家の経営する病院でということ。
だけど、せめてもの反抗心で総本山的な本院ではなく分院に就職をした。

そうしてもハルはやっぱり帰ってこなかった。

ナースになって2年が過ぎた。ハルがいなくなってもう6年。

後輩もできて仕事が楽しくなってきたところでお父さんに呼び出されて、あのお見合いをすることになったのだ。

そしてハルが帰ってきた。

ーーー過去を振り返ってみたけれど・・・やっぱりどう考えても付き合ってないよね?私たち。







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