ボードウォークの恋人たち




誕生日前夜、珍しくハルはお酒を飲んで帰ってきた。

「おかえり」

お風呂上りにミネラルウォーターを飲んでいた私に「俺にもちょうだい」とねだるハルの目は少し充血している。

「珍しく酔ってるね」

冷蔵庫から冷えたボトルを取り出しキャップを開けて手渡すと、ハルは美味しそうにごくごくと飲み干していく。

「飲まされちゃってさ」

今夜ハルは大学時代の集まりに出掛けていた。

誕生日デートを決めたあの晩のこと、大学を卒業と同時にアメリカの大学に留学しながら内視鏡の腕を磨いてキャリアを積み日本に戻ってきたのだと話してくれた。
そんなに勿体ぶるような話じゃないような気がするんだけど、どうして今まで教えてくれなかったんだろう。

今夜はその留学を世話してくれた教授や大学時代の先輩後輩たちと集まるのだと言っていたし、ご機嫌みたいだから楽しいお酒だったのだろうけど。

「大丈夫?明日の出かける時間を遅くしようか?昨日も遅かったんだし、睡眠時間キープした方が良いんじゃない?」

珍しく酔いが回って眠そうなハルが心配だ。
大学生の頃の酔ったハルは見たことがあるけれど、ここで一緒に暮らしてからは見たことがない。

「いやだ、時間通り行く」

唇を尖らせてる姿に思わずぷっと吹き出してしまう。子どもか。

「わかった、わかった。約束した時間通り出掛けよう。だからシャワー浴びて早く寝ようね」

思わず頭をポンポンとしてしまうとハルが突然ぎゅっと抱き付いてきた。

「わっ」
驚いてのけぞりそうになる私の背中をハルがしっかりと抱きとめ二人の身体が密着する。
そのまま私の肩にハルの頭が乗せられた。

「ごめん、水音。ちょっとこのままでいて」

弱々しいハルの声に離れようとしていた私の身体が止まる。
どうしたんだろう、酔ってるから?それとも何かあったんだろうか?
このまま突き飛ばすこともできたのに何故かできなかった。
甘えるように私の身体にしがみついているハルを離せないでいた。

嫌じゃなかったからーーーー


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