ウエディングドレスを着せてやろう
 姉は立ち止まり真正面を見ていた。

 その視線を追うと、ガタイのいい長身のイケメンがまっすぐこちらを見ている。

 ノーネクタイで黒いスラックスを履いた彼は、仕事場で着ているカッチリした服を着崩している感じだった。

 視線が合う。

 知らない人のような気がするが、と思う花鈴に、椿が小声で訊いてきた。

「誰なのっ?」

 いや、恋もイケメンももういいんじゃなかったのか、と思いながら、知らない、と言おうとしたとき、向こうが花鈴に近づき、言ってきた。

「花鈴様、こんばんは」

「あ、こ、こんばんは」

 ……『花鈴様』?

 もしかして、と思い、見上げると、彼は少し迷ったあとで、
「田畑です」
と名乗ってきた。
< 181 / 373 >

この作品をシェア

pagetop