完璧御曹司の優しい結婚事情
そんな幸せな時間を過ごした翌日、香穂はこれまでにない大きな発作を起こした。なんとか持ち堪えたものの、余談は許されない状況で、次にまた発作を起こした時は覚悟をするように宣告をされた。

前日のお祝いムードが嘘のようで、遠い日の出来事に感じた。誰もが言葉を失い、ただひたすら香穂の無事だけを願っていた。


そんな中、病室で僕と香穂が2人になった時、香穂が突然、独り言のように呟いた。


「一度でいいから、恋がしたかった……お嫁さんになりたかったなあ……」


それは彼女が初めて漏らす本音であり、初めてこぼす弱音でもあった。彼女は、確実に死が近付いていることを悟っていたはずだ。だからこそ、ふと漏らした言葉は、もう未来が見えないことを表していた。



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