Sweetな彼、Bitterな彼女

わたしが「いい」と言わなくても、蒼はキスをする。

嗚咽を堪えて震える唇で、懐かしい感触を味わった。

甘く、柔らかく、優しいキス。

出会った頃と同じキスだった。


「紅……好きだよ」

「……チョコレートよりも?」

「紅のほうが、美味しい。でも……両方食べられたら、もっと美味しいかも」


唇に押し当てられたのは、チョコレート。

キスの熱で溶けていくチョコレートの味は、甘く、ほのかに苦い。


「……抱いてもいい?」


わたしが「いい」と言わなくても、蒼はやめない。

肌に触れる手の温もりも、首筋を辿る唇の熱も。
蒼が与えてくれるものすべてが、わたしを満たしていく。

深く繋がり、溜め込んでいた欲望を解放しても、離れたくなかった。

力いっぱい抱きしめられて、同じ強さで抱き締め返す。

離れていた時間、離れていた距離を埋めるように、何度も抱き合った。





わたしが音を上げるまで、どれくらい時間が掛かったのか、わからない。
目をつぶった数秒後には、気怠い疲れと人肌の温もりに眠気を誘われた。




「紅の誕生日プレゼントに、黒猫グッズをいろいろ作ったんだ。でも、全部家に忘れてきた……今度、持って来るよ」


蒼の囁きを夢うつつに聞きながら、相槌を打つ。


「うん」

「紅……もう、黙っていなくならないで」

「ん……」

「紅……これからは、たくさん話をしよう?」

「んん……」

「毎日は無理でも、会いに来る」

「……うん」

「だから……もう一度、俺を紅の恋人にして?」

「…………」

「紅?」

「…………」

「ねえ、紅? 寝ないでよ! 返事は?」

 
揺さぶられ、返事をする代わりに、美味しい唇にキスをした。


「蒼……もう、眠い」

< 112 / 130 >

この作品をシェア

pagetop