Sweetな彼、Bitterな彼女
(何をやっているのよ、三橋さんっ! デスクワークで足腰弱ってるくせに、しかも十年ぶりのくせに、どんな大技を決める気だったのよっ!?)
「退院後は勤務も可能だと言っているが……」
「キーボードも打てませんよね? バリバリ働くのは、無理でしょうね」
これから、リハビリもあれば、通院もあるだろう。
新支店は、店舗を併設するものの、どちらかと言うと営業拠点の意味合いが強い。
すでにいくつか展開している店舗を取りまとめ、さらに販路を広げることを目的としている。
そのため、オープニングスタッフとして、本社の各部署から最低でも一名のヘルプ、または異動による人員が本社から送り込まれているが、経理部門は三橋さんと現地採用した新入社員という配置だった。
つまり、三橋さんがいない場合、新入社員はいきなり一人で仕事をしなくてはならなくなる。
「三橋の新支店異動は変更なしだが、当分の間、サポートが必要だ。しかし、冬の北国に免疫のない者を送り込んで、転んで二の舞になっては困るし、行ける人間も限られている」
「え、いえ、街中はほとんど雪ないですよ? オフィス街はチカホとかですし?」
偏見に満ちた雪柳課長の言葉に反論するが、ギロリと睨まれる。
「現在、財務経理部の独身者は?」
「三橋さんと、課長と……わたし、ですね?」
KOKONOEの財務経理部は、安定志向の強い人間が集まっているため、みな若くして結婚している。入社一年目の女子社員ですら、すでに婚約済み。
総勢二十名の中、売れ残っているのは、仕事の鬼である雪柳課長と若干マザコンの気がある三橋さん。
そして、彼氏はいても、結婚の気配も匂いもしない、わたしの三人だけだった。
「ということは……」
「適任者は、おまえしかいない」
「でも、これから年度末決算と監査が……」
「引き継ぎさえしっかりしてもらえれば、俺と既存の社員、元財務経理出身者をかき集めて何とかできる」
異動から一年弱にもかかわらず、財務経理部のことを隅から隅まで理解している雪柳課長だ。
彼ができると言うなら、本当にできるだろうが……。
「ええと……お断りすることは……」
雪柳課長は、唸るように言った。
「結婚でもするというのなら、一年のところを半年にしてやらないでもない」
(結局、断れないんじゃないの!)
内心ツッコミつつ、わたしはこういうときの常套句を口にした。
「少し、考えさせてください」