Sweetな彼、Bitterな彼女
使い慣れた駅で電車を降り、ハイヒールの拷問に耐えつつ詩子と待ち合わせている店へ向かう。
足の痛みを紛れさせようと、『自然消滅』するためには、何をしなければいけないか考えてみる。
一、異動の返事をする(もちろん受ける)
二、仕事の引き継ぎをする(大至急)
三、引っ越しの準備をする(蒼の部屋と自分の部屋)
四、蒼に連絡を取らないようにする(いまでも、ほとんど取っていない)
意外に、やらなければならないことは、少なかった。
物理的な距離があれば、意識的に「会わない」ではなく、文字通り「会えない」のだから、自然と変化を受け入れられそうだ。
それに……。
蒼が、わたしの異動に気づかなければ、それが最後のトドメとなって、吹っ切れる。
今回の異動はイレギュラーで、大々的に発表されることはないし、蒼も有給休暇の消化に入るはず。わたしの異動は、彼氏であれば当然知っていると考えるのが普通で、わざわざ教える人がいるとも思えない。
三月、四月、わたしの仕事が忙しいのは毎年のことだ。会えない理由を無理に作る必要もない。
検討した結果、「完全犯罪」が可能だという結論に至る。
しかし、問題が一つあった。
どこかで期限を切らなければ、ずるずると引きずってしまうかもしれない。
気持ちを整理するのに、どれくらい必要なのか見当がつかず、首を捻る。
ひと月では足りないだろう。
三か月では長すぎるかもしれない。
あと二か月とちょっと。
その日より前に蒼が気づいたら、向き合って、ちゃんと話をする。
その日を過ぎても蒼が気づかなかったら、そのまま終わりにする。
わたしの誕生日を、時効成立の日と定めることにした。