裏切り

一也


梓と男性の姿を
産婦人科でみてから
梓をあきらめて
次の研修に頑張ろう
と、思い悩む中·····

「西先生、ご面会の方が
お見えになっています。」
と、受付から連絡がきた
「どなたかの?」
「ああ、いえ、西先生にです。」
と、言われて
直ぐに受付に行くと·······

あの時····梓を抱きしめていた
        ······おとこ·····

俺は、ギリっと奥歯がなるが···
「西です。あなたは?」
と、言うと
「私の事を知ってらっしゃるのでは?」
と、目を鋭くして訊かれて
「あーっ、すみません。
私は、進藤と申します。」
えっ、梓の前の名字?
俺が、考えている間に
「お話がありますので
お時間頂けませんか?」
「あなたとですか?」
「あなたには、訊く義務があります。
私が言っている意味わかりますよね。」
「えっ、あなたは······」
「そうです。
では、あちらのカフェでお待ちしています。」
そう言って
梓の元夫であるだろう進藤さんは
病院を後にした。

なんの話だろう?
責められる?慰謝料か?

俺は、当直ではなかったから
急いでカフェに向かった。

それにしても·····
梓の旦那さんだった
進藤さんは、強面だが
イケメンで背も高かった。

なんで、梓は、俺と·····
やはり、遊び····だった····のか····

カフェにつくと
進藤さんは、俺を見つけ
立ち上がってくれた。

俺は、進藤さんの所に行き
頭を下げた。
進藤さんは、
「西さん、座って下さい。
単刀直入に言います。
梓は、妊娠しています。
そして、お腹の子の父親は
あなた、西さんです。」
「ええっ····にん··しん····おれ···の···」
「はっきり言います。
俺と梓は、長く夫婦としての
営みはありません。
梓に他に男がいるとは
思えない。
梓は、あなたと連絡をとっていない
と言ってましたが····
あなたと梓が、この後
一緒になろうが
このまま別れようが
俺は、どちらでもいいんです。
ただ、あなたにも知る権利があると
俺が思っただけです。
今、梓は、友人の家にいます。
もちろん、梓は、俺があなたに
会っていることも知りません。」
「だから、あの時
産婦人科に········」
「あの時、あなたも
見ていたのですか?はぁ·····
そうです、あの日、
俺は大事な約束があったのに
梓が倒れたと梓の友人から連絡を貰い
その友人は、俺しか連絡先を
知らなかったから、と。

あなたに梓の居所を知らせます。
行くか、行かないかは
あなたにおまかせします。
それから、離婚後300日以内に
妊娠すると俺の籍に入るらしく
そうならないように
弁護士さんに申し立てをして
もらっています。
これは、まず問題ないと
思います。」
「そうだったのですか?
あずっ、梓の体は大丈夫なのですか?」
「たぶん。
ただ、つわりと貧血があるらしい。」
「そう····ですか。」
「申し立てが認められたら
お知らせします。
もちろん梓にも。」
「わざわざ、ありがとうございました。
一方的に梓から別れを
言われましたが
どんな形になろと、
一度、梓と話します。
あの、先程、あなたも?
と言われましたが」
「あっと。
私は、見ての通り表情を表に出す事が
苦手です。だから、梓と離婚をして
もう恋愛も結婚もする気もなかったのです。
ああ、別に梓に未練とかないですよ。
梓には押しきられた形ですが
それでも私なりに大事にしてきた
つもりでしたが····
そんな、私が
この人と一生一緒にいたいと
思う女性に出会えたのです。
その人も、あの時を見ていたのです。
で、彼女は酷く傷ついて
連絡を拒否されてしまっています。
だから、自分の身の回りを
きちんとして
彼女に向き合いたいんだ。」
「あなた·····正直ですね。
梓の事は、俺がきちんとします。
戸籍の事では、ご迷惑おかけしますが
宜しくお願い致します。
それと、知らなかったとはいえ
梓とのこと、申し訳ありません。」
と、頭を下げた。

進藤さんは、
「俺は、俺のために動いているだけだ。」
と、言って会計をしてくれて
帰って行った。
< 69 / 96 >

この作品をシェア

pagetop