裏切り

この男は



くつを履いていると

「待って!千亜季。待って!!」
と、追いかけてきて
私の腕を掴む大典に

「離してくれない!!気持ち悪い。」
と、腕を振りほどくと

びっくりしたような顔をする大典に

「ここは、私の父の部屋だったのよ。
そんな部屋に良く女を連れ込めるわね
大切な父の部屋を
あなたは、汚したの
絶対に許せない!!

この部屋には、二度と住めないから
買い取って頂戴。
それも、元の値で。

それ以外の事は、
弁護士をたてるから。
あなたのお相手にも
慰謝料の請求をさせて頂くから
そう、お伝えください。」
と、言うとそのまま
ドアを開けて外に出た。

大典は、直ぐに追ってきて
「千亜季、待って。
出ていくつもりじゃないよね?」
と、言う

この人は、何を言っているのだと
思いながら無言で
エレベーターに向かう

大典は、ずっと私の後を
追ってくるが
「いい加減にしてくれる?
あなたのお相手が、待ってるわよ。」
「違う、夏海とはそんなんじゃない?」
「へえ、夏海ね。
構わないわよ。
どうぞ、ご自由に。」
と、言ってエレベーターに乗り込むと
大典も乗り込んできた

私は奥のすみに行き
大典は、手前に立っている。

この人は、
どういうつもりなんだろうか?

エレベーターが、一階につくと
私は、大典に構うことなく
そのまま外に出て
タクシーをさがす

私のそばに大典もいる。

タクシーが近づいてきたので
良かった、と思っていると
タクシーは、マンションの前で止まり
男性をおろした。

そのタクシーに
「大丈夫ですか?」
と、訊ねると
「どうぞ。」
と、言われて、
乗り込もうとするが
大典が私の腕をつかんできて
「離して。」
と、言うが離してくれない。

なんどか、同じ事を言っていると
「お客さん、どうします?」
と、タクシーの運転手さんから
「あっ、すみません。乗ります。」
と、言いながら
「いい加減にして。」
と、両手で離しにかかるが
大典は、より強く掴む
「痛いから!! 離して。」
と、言っていると

「離してあげないと
運転手さんも困ってますよ。」
と、さっきこのタクシーから
降りた男性が大典に
向かって言う
「部外者は、黙っていてください。」
と、大典が、怒鳴ると
「いや、そちらの女性も
腕が痛そうですし。」
と、重ねて男性に言われて
大典の力が少し緩くなった一瞬に
私は、腕を払い
タクシーに乗り込んだ。

ドアを閉めてもらうと
男性がタクシーの
トランクをコンコンとたたき
運転手さんがトランクを
開けるボタンを押し
男性がキャリーバッグをのせてくれた。

その男性に
タクシーの中から頭を下げると
運転手さんも頭を下げてくれていた

男性は、苦笑いしながら
頷いてマンションの中に
入っていった。
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