"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる


『俺がどうしようもなく、耐えられそうに無くなったら』

それは莉乃とのことだったのか。そうじゃない可能性も十分あるのに、絵里にはそう思えた。


「あの約束、今、果たした方がいい?」


『その時はどんな手を使っても』


千葉崎はそう言った。

なんだか物騒だ。何をどうしろとも言われていない。

簡単に言うべきじゃない。分かってる。


こいつは普段憎たらしくて、腹立たしくて友達だとも思っていない。悠介と一緒にいるから一緒にいるだけだ。

それはきっとお互い様。


………だけど、こいつは嘘をついてまで私を慰めに来てくれた。泣いていた私を放っておかなかった。


「………あー、失敗したなぁ」

そう言って千葉崎は絵里から体を離して立ち上がった。

「あーあー、錆びついちゃった。最悪」


自分の後ろを振り返って、大袈裟にため息をつき、絵里を通り過ぎて白線の前に立つ。

潮風に揺れる金の髪。
コートは錆が付いて不格好。

カンカンと遠くで遮断機の音が鳴り始め、「白線の内側に立たないでください」とアナウンスが流れ始めた。

「酒井。好きな人いるのに他の男に抱きしめられちゃダメだよ」

「はぁ?あんたがそれを言う?」

誰が抱きしめてきたのか。誰が離さなかったのか。

「頭を撫でたのもダメ」

「………」


それは絵里にも何も言えない。
………でも元々は千葉崎のせいじゃん。


「そういうあんたこそ、彼女がいるのに女子を抱きしめるとか。それ、浮気行為だから!今回は男友達みたいな私だったから良かったものの、他の子にもしてるんならそれ最低だし、莉乃ちゃんが」


悲しむんだから。





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