"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる


「町田くん?」

ガタッと、思わず体勢を崩してしまい、廊下に手をつく。慌てて起き上がって外に出た。

「こんにちは」

「こんにちは〜。部屋に入るところだったのかな?ごめんね。ちらっと町田くんの姿が見えたような気がして呼び止めちゃった」

「いえ。……どうされたんですか?」

「町田くんって年末年始は実家で過ごすの?」

「そのつもりです。相沢さん達もですか?」

「うん、二人で帰るつもり!」

嬉しそうに琴音は微笑んだ。


「町田くんは冷蔵庫の整理は終わった?大根とかまだあるんじゃない?」

「実はまだあります……」

「やっぱり〜!まさか、全部ちゃんと育つとは思ってなかったから町田くん食べ切れるのかなぁって思ってたの!」

「育たないことってあるんですか?」

「海が近いでしょう?潮にやられちゃうこととかもあるのよ〜。でも今年はしっかり育ってくれて……おかげで私のところもまだ消費しきれてないの。何か欲しい野菜はある?人参とか白菜とかネギもあるよ!」

お隣は八百屋か何かだったのか。

「いいんですか?」

「もちろん!貰ってくれた方が嬉しい!」

「今、家に大根しかなかったので助かります」

「えっ!」

何故か琴音が驚きの声を上げかと思えば悩ましげに唸り出す。

俺なんか変なこと言ったかな。

顎に手を当て、塀を一点に見つめる琴音は急に嫌いな食べ物はあるかと聞いた。

「特に、ないですね」

「今日のご予定は?」

「ない、ですけど、」

「じゃあ夕飯一緒に食べよう!」

名案を思いついたというようにキラキラとした笑顔だった。
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