"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
タオルで髪の水分を軽く拭き取りつつ、妻の話の続きを聞く男。


「体育会系なのかな。体格とか結構しっかりしてて、集中力も凄かった。水分摂るのを忘れるくらい掃除に夢中だったよ」

「は?ずっと一緒にいたわけ?」

動かしていた手を止めた男は眉間にシワを寄せ、妻を振り返る。妻はキョトンとしながら首を横に振った。


「ううん。ずっとじゃないけど、隣の家の庭の雑草を抜いてる間だけ。伸び放題なの気になるじゃない」

「ならねーよ」


深くため息をつき、部屋へ向かおうとすれば後ろを妻がついてくる。

縁側に続く扉を開けたところで、男はタオルを妻の顔面に被せる。妻は「わっ」と言って、立ち止まる。


これもいつものことだ。
学ばない妻を尻目に扉を閉めると、「もー」と、非難の声が聞こえてきた。

少しだけ扉を開けると、顔面に被せられたタオルを取った妻が嬉しそうに笑う。


「琴音」

「なーに」

警戒心一つない、相変わらず抜けている妻、琴音に呆れたため息を溢し、その頭を軽く撫でる。

琴音は「へへへ」と少し恥ずかしそうにしながらも、嬉しそうに笑った。


「………これからはちゃんと戸締りして、勝手にホイホイ隣の家に入るなよ」


油断した琴音の額にビシッとデコピンをし、男は扉を閉めた。

琴音は額を押さえ、恨めしそうに扉を見つめるのだった。
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