"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
管理人に渡された物件情報紙と手書きの地図を見比べながら歩き続けた。

駅付近は住宅街が広がっていたが、地図に従うにつれ住宅は減っていき、やがて道の両脇に住宅がなくなってしまった。


本当にここであっているのか?と、やや不安を感じながら、とてつもなく長い坂を上りきったところで見つけた。


石造りの小高い塀に囲まれた木造の平屋。全く同じ作りをしたものが塀越しに二軒並んでいる。手前にはすでに住人がいて、俺が住むのはその奥の平屋だ。


管理人曰く、改装はしたが暫く使っていないから綺麗ではない。そう聞いていたから、特に期待はしていなかった。


雑草で生い茂った庭や前のアパートのように床が抜けてしまうようなボロであることも覚悟の上だったが、草木はきちんと手入れされ、平屋自体も綺麗でホッとした。


渡された鍵を使い、ちょっと深呼吸してからガラガラと音を鳴らして玄関に入る。

埃っぽい匂いに思わず口を覆った。

一切掃除がされていなかったのだろう。空中には埃が舞い、靴箱や廊下も埃まみれだ。


仕方がないとはいえ、マイナスポイント。


とりあえず靴を脱いで中に入る。

閉め切っているせいか薄暗いし、蒸し暑い。換気も兼ねて小窓や障子を片っ端から開けていきながら部屋を確認していく。

玄関に入ってすぐ右側には小さめの和室。少し歩くとダイニングとキッチンがあり、そこを通り抜けるとお風呂とトイレが別々に設置されていた。

一人で住むには勿体無い広さ。それなりに覚悟してきたが思っていた以上に良い物件。
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