"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる


そうだ。
この男は目敏く、非常に観察力がある。

前に家に遊びに来た時、琴音の話をすれば『好きになっちゃった感じ?』と、言ってきた。

その時はまた揶揄っているのか、と言う程度だったが、もし、千葉崎がその時には俺の気持ちに気づいていたとしたなら……。

恐ろしい話だ。

パーマのかかった金髪。耳に幾つもあるピアス。緩い喋り方。容姿も言動もちゃらけているが、人をよく見ているのは確かだ。

この先、琴音への気持ちがばれて「ほらね」とドヤ顔されたりしたら恥ずかしくてたまらない。

それならいっそ、正直に告げた方がましだ。


「あのさ、俺、やっぱり相沢さんのことが好きらしい」

さっきまで人間観察に勤しんでいた千葉崎の動きがピタリと止まった。

たっぷり十秒は固まっていた千葉崎は慌てたように周りを見て、誰もいないことを確認するとグイッと近づいてきた。


「うぉい、うぉ〜い。ゆ〜君。急にネタぶっ込みすぎたろうよ〜。もうちょっとそれらしい話をした時に混ぜてくれないと。俺、心臓が縮んだかと思った。え?相沢ってまさか、今、審判してる相沢じゃないよな?」


審判をしている相沢?

Aコートの審判をニヤニヤと指差す千葉崎に嫌な予感がしつつ見れば、二年の中で最もガタイのいい相沢剛(♂)がいた。

彼の見た目はゴリラによく似ている。


「ふざけんな、なわけねーだろ!」

「だ、だよねぇ〜!じゃあ、誰さ?」


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