溺愛婚約者と秘密の約束と甘い媚薬を



 すると、予想外に早くに車が停車した。
 沢山のビルが立ち並ぶ中にひっそりと佇む、1階建ての建物だった。
 車を止め、柊が建物に入るが中に誰も折らずドアだけが並んでいた。


 「こっちだよ」


 そういうと、柊はカードキーを取りだしドアの横にあった機械に通した。すると、「ピピッ」という音の後、鍵が開く音が響いた。柊は迷う様子もなく中に入っていく。風香はこの施設が何なのかわからなかったが、ドアの先の物を見た瞬間にここが何なのか理解した。
 そこには、沢山の金庫が並んでいたのだ。


 「………ここって貸金庫?」
 「そうだよ。そこに入っているもの。もちろん、もうわかっただろう?」


 柊はニヤリと笑うと持っていた鍵で、1つの貸金庫の前に止まりドアを開けた。そこには、小さな黒い箱がポツリと収まっていた。


 「はい。これ、預かってたもの」
 「…………久しぶりだな。会うの………」


 そう言ってその箱を受けとると、中からはワイン色のキラキラと輝くネックレスが出てきた。ロードライトガーネット。祖母から貰った、風香の大切な宝物だった。
 風香はそのガーネットを柊に預けていたのだ。そして、彼がどうやって持っていたのか知らなかった。


 「柊に持っていた貰ってたけど……まさか貸金庫まで借りててくれたなんて」
 「愛しいフィアンセの宝物ですから」
 「ふふふ………ありがとう」


 風香はそう言ってガーネットに触れた。ひんやりとした宝石は、しっかりと手に馴染む。不安になった時は、いつもこのガーネットを持って大好きな祖母の事を思い出していたのだ。


 「………おばあちゃん。久しぶりだね。また、時々こうやって触れさせてね」
 「持って帰ってもいいんだよ?」
 「ううん。今はまだ………大丈夫」
 「そうか」


 風香の気持ちを察したのか、柊はそれ以上なにも言う事はなかった。



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