溺愛婚約者と秘密の約束と甘い媚薬を




 「えぇ。久しぶりの連休を貰っていたので。一人旅をしに……風香さんは?」
 「私も同じです。一人でここに来ました」
 「そうですか。ここはいい場所ですね。ホテルからの景色も最高だし、周りには落ち着いた店も多くて雰囲気もいいのに混み合っていないので、静かですし。それに………何故か懐かしさも感じます」


 それからしばらくはこの場所についての話しをしながら浜辺を歩いた。潮風が温かく春を感じさせるものだった。
 しばらく歩くと、目的地のレストランが見えてきた。ランチ時だったので少し混雑していたが、ちょうど帰る人が居たため待ち時間もなく店内に案内された。
 2人が座ったのは、窓際の海の見える席だった。柊は遠くの海を眺めながら、懐かしそうに目を細めて遠くを見つめていた。
 彼の懐かしいというのは、自分と旅行に来た事があるからではないか、風香はそう思ってしまい、ここで彼に全てを打ち明けてしまいたかった。
 けれど、それはまだ早いのではないか、と風香は思い止まり、高まる気持ちをグッと堪えた。

 風香は、目の前の彼は自分の婚約者である青海柊と同一人物だとほぼ確信していた。
 けれど、まだ疑ってしまう部分があるのだ。いや、彼が自分の事を忘れていると思いたくないのかもしれない。
 ずるいとは思いつつも、風香は左手の薬指の婚約指輪はつけていなかった。
 もしつけていたら、彼は風香を婚約しているか結婚していると思って離れてしまうと考えたからだ。彼に嘘をついてしまっているのは心苦しいけれど、本当に柊なのか見極めるためには必要なのだと、思うようにした。
 そのためには、彼にいろいろと質問しなければいけないのだ。
 風香は話しのタイミングを見計らいながら、柊に問いかけていった。




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