溺愛婚約者と秘密の約束と甘い媚薬を
「すみません。………そろそろ、時間です」
「あ。長々とすみませんでした。せっかくのお休みなのに時間を貰ってしまって……」
「いえ。一人旅のいい思い出が出来ました。一人旅もゆったりできていいですが、やはり誰かと一緒の方が楽しい。そう、思えました」
「………そ、そうですね」
彼の優しい言葉は全て自分に向けられていると勘違いしそうになってしまうほど、紳士的な返事だった。
柊が記憶を失くしていたとしても、やはりまだ大好きだと強く強く思える。
ここでお別れだとは思いたくない。早く連絡先を聞かなければ。
そう思って、スマホを出そうとしたときだった。
柊は、小さな紙をスッと差し出してきた。
そこには手書きで、スマホの番号が書かれていた。
「風香さんに渡したくて、準備してきました。連絡先です」
「………あ、ありがとうございます」
「受け取って貰えなかったら、自分で捨てようと思ってたので。そうならなくてよかったです」
「そんな………私もお聞きしたいと思っていたんです」
「では、また会えるように連絡してください。楽しみにしています」
柊は、そう言って席から立ち上がった。
風香も同じように立ち上がろうとするが、柊はそれを止めた。