溺愛婚約者と秘密の約束と甘い媚薬を




 目の前から柊がいた痕跡がなくなり、風香は寂しくなる。けれど、テーブルの端には、彼から貰った紙が置いてある。それだけで、先ほど柊と会ったのが夢ではないと思わせてくれる。
 何気なくその紙を裏返すと、そこには彼の名前が書かれた名刺があった。警察官だと示すものだった。


 「この名刺は同じだわ………」


 それを見つめると何故だか雨音が聞こえてくるような、そんな気がした。
 しばらくの間、その名刺を見つめているうちに、暖かいコーヒーも、また冷めてしまったのだった。










 その日の夜。
 警察から電話が掛かってきた。
 相手は柊の後輩である朝霧和臣(あさぎりかずおみ)からだ。内容は、柊が見つかったという事だった。
 風香は、偶然にも彼に会っていた事、そして彼が自分の事だけを忘れている様子だった事を伝えると驚きの声を上げていた。
 電話で詳しく話す事ではなかったし、和臣も仕事中だったため、その話しはすぐに終わり、明日に風香が警察署に向かう事になった。





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