溺愛婚約者と秘密の約束と甘い媚薬を




 『………警察からはまだ連絡ないって事だよね?』
 「うん………。まだ連絡は来てないんだ」
 『そう、あんまり気落ちしすぎないんだよ。風香が倒れちゃったら、柊さんが帰ってきた時に心配しちゃうんだから』
 「そうだね………」


 久遠美鈴(くおんみすず)の心配してくれる言葉に返事をしつつも、風香はまだ彼の事を考えるのを止める事など出来なかった。


 『柊さんが行方不明になってから1ヶ月か………本当に無事に帰ってきてくれるといいね』


 そう。風香の恋人であり婚約相手である青海柊が、3月のある日に忽然と姿を消したのだ。

 行方不明になってしまう日の前日も、彼とデートをしていた。結婚式の食事やお土産は何にしようか?ドレスは何を着ようか?と2人で話をしたのだ。
 風香の誕生月である6月に結婚式を挙げようとプロポーズしてくれたのは、約1年前だった。
 結婚式や、夫婦になった後の事も楽しみにしていたはずの柊。それなのに、何故自分の前から何も言わずにいなくなってしまったのか。
 風香はその日からずっとショックを受け続けていた。


 「……心配なんだ。何か事件に巻き込まれたんじゃないかって思えて………」
 『そうなんだよね。柊さんの職業柄、そこが1番の心配だよね………』


 柊の仕事は警察官だった。
 しかも、最近流行りのドラッグの取り締まりをしているようだったのでかなり心配だった。何か事件に巻き込まれているのではないか。
 今、彼は苦しい思いをしていないか。怪我をしているのではないか。そんな事を考えては眠れぬ夜を過ごしていた。
 けれど、警察からは何か事件に巻き込まれたのか調査中としているが、今の所は進展なしのようだった。


 『大丈夫?少し楽しいことした方がいいかもよ?あ、私が風香の家に行こうか?』
 「ううん………ごめん。まだ、一人で居たいんだ」
 『そっか……無理はしないでね。あ、少し今の場所から離れて一人旅してみるのもいいかもしれないよ。気分転換も大切だよ?』
 「一人旅か…………」
 『そうそう!あ、ごめん……会社から電話だ。また何かあったら連絡してね』
 「うん。ありがとう、美鈴」


 風香は彼女にお礼を伝えた後、電話を切った。
 美鈴はサバサバしていて、頭が良く活発な性格だった。大学卒業後はネットショッピングのお店を立ち上げて、少しずつ人気が出てきているようだった。とても優しい美鈴の事だ。会社でも、良い社長として人気なのだろう。
 そんな彼女だからこそ、性格が全く違う風香とも仲良くなれたのだろうと、感じていた。




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