Limited-lover
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「はあ……」


宮本さんとカフェを出て、駅の改札で別れて、アパートに帰ってきた。


別に、宮本さんが「じゃあねバイバイ」って言ったわけじゃない。
私がさくさく会計を済ませ、自ら「じゃあ、これで!」と言った感じ。


宮本さんは、キョトンとした顔で一言。


「……うん、じゃあ。」


そうあっさり言った。


別に…『もう少し』とか引き留められる事を期待していたわけじゃないけれど。アパートに帰って来た今、何だか寂しい気持ちと恥ずかしい気持ちで複雑になっている。


……望めばもう少し一緒に居られたのかな。
でもな…『食いしん坊』のレッテルを貼られた身としては、あれ以上一緒に居るのはな…まして、自分から『もう少し』とはとても恥ずかしくて言えない。

宮本さんの方から『もう少しいい?』って言ってくれたら、気持ちも持ち直せたけど……


「………。」


……いやいや。
何を麻痺しているんだ、私は。

告白したのは私でしょ。
何で宮本さんにして貰う事を望んでいるのよ。頑張らなきゃいけないのは私なんだから。


袋から携帯座布団を取り出し、それをマジマジと見つめた。


…とにかく、一週間て猶予は貰っているんだから。
食いしん坊と思われたからってそれを引きずっていたら、時間がもったいない。

座布団を置いて代わりにスマホを手に取った。


『座布団をありがとうございました。』


「……」


そこで指が止まる。

たった今、奮い立たせた気持ちは、またマイナス方向へ。


本当は明日の帰りの約束とか具体的にしたいけれど…これで断られたら…な。


結局土壇場で弱気な私。

続けて『お休みなさい。また明日』と打つだけにとどめた。


宮本さんとのトーク画面上に乗ったメッセージはすぐ既読になる。


『おつかれ』

…返信、すぐ来た。


『明日の昼は?休み何時?』


ドキンと鼓動が跳ねる。


『今日と同じです』
『じゃあ、同じ様に13時10分書庫整理室ね』


これって……


『座布団忘れない様に』


明日もお昼休みに膝枕で寝ようと思ってくれてるって事、だよね?


最後に『おやすみ』というスタンプが送られて来て、勝手に頬が緩む。


「くーっ!」


そのまま、スマホをおでこに当てて転がった。


良かった…嬉しい…な。


よし、食いしん坊はもう気にしない!
明日の帰りもデートして貰える様に昼に打診してみよう。

貴重な一週間をちゃんと過ごさなきゃ。


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