ごめんなさい… 忘れられない彼がいます
そうして、なんとなくボーゲンが形になり始めたところで、

「よし! リフトで上に行ってみよう!」

と言い出した。

「無理! まだ無理だから!」

そう言う私を、強引にリフト乗り場へと連れていく。

2人乗りのリフトは、タイミングよく乗るのも怖いし、乗った後も落ちそうで怖い。

私がしっかりとリフトの棒を握っていると、

「大丈夫だから」

と和真さんが手を握ってくれた。

絶対、街中だったら振り解いてたその手を、今は縋るようにされるがまま握られている。

リフトを降りてすぐのところは、少し坂が急になっていて怖い。

けれど、後ろからどんどん人が降りてくるので、ここで止まるわけにはいかない。

困っていると、和真さんが後ろ向きになって私の手を取ってくれた。

「大丈夫。
 俺が支えてるから」

そう言われて、ストックを和真さんに預け、両手を和真さんに支えてもらいながら、急な斜面をゆっくりと滑り下りる。

最初の難所を抜けると、後はゆっくりと斜面にジグザグ模様を描くように下りていく。

和真さんは、常に私の少し下にいて、

「菜穂が転んでも、絶対下まで転がり落ちる
 ことはないから。俺が絶対止めるから、
 安心して下りてこい」

と励ましてくれる。

そうして、ようやく下まで滑り下りると、

「よくやったな。おめでとう」

と頭を撫でてくれた。

グローブ越しに撫でられてるだけなのに、なんでこんなに胸がざわつくんだろう。

そうか。

これがゲレンデの魔法っていうやつなのね。

ひとり、納得して、また2人乗りのリフトで上へと登る。

そうして3本ほど滑り、少しスキーが楽しくなってきたところで、和真さんは言った。

「さ、そろそろ時間だから、帰ろうか」

「え? もう?」

思わず私がそう答えると、和真さんは嬉しそうに微笑んだ。

「菜穂が楽しんでくれたみたいで良かった。
 また来週来ればいいから」

「え?」

来週も?

「菜穂が他に行きたいところがあるなら、
 それでもいいけど、今日楽しかったなら、
 また来よう」

「はい」

スキーは本当に楽しかった。

帰りの車では、私はいつの間にか、夢も見ないくらいぐっすりと眠っていた。

高速を下り、家に着く直前に目覚めた私が、和真さんに必死で謝ると、和真さんは心底楽しそうに笑った。

「早起きだったし、疲れたし、
 しょうがないよ。
 むしろ、俺の運転で安心して寝てくれたん
 なら、その方が嬉しいよ」
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