メーティスの骸
「ある日、宗一は体調が悪いと言うようになった。病院に行っても異常はなし。そしてそのまま亡くなった。アルファベットの書かれたカードがそばにあった状態で」

「だから、宍戸はずっと調べていたのか。美咲さんもこのことを知っていたから……」

うつむく玲奈に、透は拳を握り締める。出会った頃から無表情であることが多いその顔の裏に、大切な人を失った過去を秘めていたなどあの頃の透は知らない。それが悔しかった。

「……二人で過ごした日々は、とても楽しかった。私が精一杯おしゃれをした時にはとても褒めてくれて、二人で寄生虫の調査をしにたやに出かけて、宗一が白ワインが好きだから私も好きになって……」

玲奈の瞳から、ひとすじの涙があふれていく。それに気付いた玲奈は慌てて顔を隠そうとした。それを透は素早く止める。

「誤魔化すなよ。お前だって人間なんだし、泣けよ」

優しい言葉をかけられず、透は後悔する。しかし、玲奈の瞳はますます潤んで涙が流れていった。
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