恋人のフリはもう嫌です

「珍しく親父が褒めていたから、どんな人なのか気になって。ご迷惑でなければ、この後、食事でもどうですか」

 親父という発言的にも、『松本』という名字も。
 彼は松本社長の息子さんみたいだ。

「褒めて、というのは私ではなく、同行していた西山の方ではないですか?」

「いや、親父には「藤井さんの爪の垢を煎じて飲ませたい」って」

「そんな、とても私は」

 目を丸くすると、彼は付け加えて言った。

「社会人になって、同世代の人と話す機会が極端に減って。うちの会社は規模が小さいですし。交流が持てるとありがたいです」

 松本機器とは、今後も良い関係を築いていきたい。
 確かに良い機会かもしれない。

「こちらこそよろしくお願いします」

「本当ですか? 良かった〜。あ、すみません。敬語、苦手で。歳、近いですよね。砕けて話してはダメかな」

 頭をかく彼がおかしくて「松本さんが良ければ」と、返答すると「良かった〜」と顔を綻ばせた。
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