恋人のフリはもう嫌です

「自分は久保さんと、お付き合いされていたくせに!」

 投げつけたピアスを、咄嗟に片手でキャッチする彼が腹立たしい。

「これ、なに。千穂ちゃんの、ではないよね」

 彼は手にしたピアスを、躊躇なくゴミ箱に捨てた。
 冷酷な行動をする彼を見ていられずに、私は自分の足先を見つめて言った。

「忘れらない人も、いるんですよね。私はもう」

 言ってしまえばいい。
 私はもう無理です、と。

 けれど、続きを言えずに力なく頭を振る私に、彼は静かに語り出した。

「恵梨香は、俺がブラウニーに勤めている時に」

 聞きたくない。
 私は耳を押さえて、頭を振り続けた。

「誰にも本気にならないって、言われたのを千穂ちゃんも聞いたでしょう。俺はどこか欠落していて、人を愛おしいと思う当たり前の感情をどこかに」

 寂しくなるような内容は、到底飲み込めない言葉へと続いた。

「ほとんどが、その場限りで」

「嘘」

 そんなはずはない、という気持ちが声になる。

「だってピアスは、寝室に落ちていて」

「ああ、そうか。それで前に」

 彼はなにかを納得したように呟き、私は納得出来ない思いを漏らす。
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