恋人のフリはもう嫌です

 私は、彼の服の端を掴んで訴える。

「今だって、私に恋人のフリなんて頼んで」

「変わっていないって?」

 私は小さく頷いた。

「そうかな。そう思われるのは仕方ないけれど」

 言葉を切り、涙に濡れた私の頬を拭うように指の腹でなぞった。

「俺の中ではどうでもいい女に寄り付かれるのはもう充分だという、変化だと思っているよ」

 彼の言葉の意味を、深読みしてしまう。
 きっと深い意味なんて、なにもないのに。
 彼が触れる優しい温もりも。

 勘違いはしない。

「遅くなる。送るから行こう」

 促され、寝室から出て帰り支度をした。

 お手洗いを済ませている間に、タクシーを呼んでくれた彼は私をタクシーに乗せた。

「また明日ね」

 送るからと言ったのに、彼はタクシーを見送ってマンションに戻ってしまった。
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