極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する


伊月に失礼な態度をとってしまった翌日、大地を学校に送り出してからひとりで出かけることにした。

おばあちゃんは旅行中で明日まで帰ってこないし、ひとりで家にいてもジメジメ考えてしまいそうだったので、速攻で家事を済ませて飛び出すように家を出た。……のは、いいけれど。

駅中をぶらぶらしてみても、いつか佳乃と一緒にきた雑貨屋さんを覗いてみても、興味を引くようなものが見つからないどころか、ちっとも気持ちが浮上しない。

目に映るものすべてが、頭にとどまらずサラサラと表面だけを流れていく。

今日も天気は晴れで、ちょっと外に出て見上げれば澄み渡った青空が広がっているっていうのに、こんな抜けるような空を目の前にしても、私の気持ちはピクリともせずじっとうずくまっているみたいに動かなかった。

いい加減気分あげようよ……と自分自身に言ってみるけれど、その声がすでに暗く落ち込んでいて、呆れて笑みがこぼれそうになった。

ジメジメしたくないからと、気が乗らないなか無理に外に出たっていうのに、これじゃなんにもならない。
場所が家から外に変わっただけだ。

駅から少し離れると、周りを歩く通行人がみんなしてスーツに身を包んだ社会人だということに気付く。
それと同時に、昼間から仕事もしないでぶらぶらしている自分が情けなくなり、今日こそせめて求人雑誌を買って帰ろうと心に決めていたとき、「つぐみさん」と声をかけられた。

私のことをそんな風に呼ぶひとはいない。

だから驚いて顔を上げると、二メートルほど前に見覚えのある男性が立っていた。
丸眼鏡に顎髭という個性的な男性を、一体どこで見かけたんだっけ……と必死に頭を巡らせ、ようやく答えに辿りつく。

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