極上御曹司は失恋OLを新妻に所望する


目の前で繰り広げられる光景に、これは夢かと頬をつねりたくなった。

「結婚ってなに?! 同棲してる彼女がいるってなによっ! 私と付き合っておいて、他の女と結婚って……なんなの?! 信じられない!」

いつもは静かな、小さな文房具メーカーのオフィスが騒然となる。文房具というと、ボールペンや蛍光ペン、消しゴムなどがまず頭に浮かぶけれど、うちの主力商品はセロハンテープだ。
もちろん、一般的な文房具も手にかけているけれど……と、それは今は横に置いておいて。

一日の乗降客数が二百万人を超える大きな駅から徒歩十五分の場所にある八階建てのビル。
そのビルの六階にあるのが私の勤めるオフィスだ。

高卒で入社したせいか給料が低くくて頭を抱えているけれど、この職場自体には特に大きな悩みはない。
そんな、平和だったはずのオフィスの中心で、女性社員が男性社員の上に馬乗りになっていた。

上に乗っている女性社員が土井さんで、その下に組み敷かれている男性社員が光川さん。ふたりとも三十代半ばの中堅社員だ。

部署が違うから、社内でそこまで話す機会はないけれど、噂で名前を聞くこともない、ごく普通の人たちだ。それが、どうしてこんなことに……と他の社員全員が呆然としていた。

「光川くん、付き合い始めたとき、社内の人に冷やかされると恥ずかしいし仕事がしにくいから黙ってようって言ってたよね? それって、鼻から私とは別れるつもりだったからってこと? 信じられない……! 誠実な人だと思ってたのに!」

「とりあえず落ち着いて……結婚はもう決まったことだし、今さら言っても仕方ないだろ?」


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