俺がしあわせにします

お似合いの二人

「宮原、出られる?」

よく通る声が俺の胸を突き刺した。

声の主は振り返らなくてもわかる。
和奏さんは立ち上がって、声の主にこたえる。

「あ、椎名、今行く」

そして、荷物を抱えると、俺を振り返る。

「じゃあ、行ってきます」

「はい、気をつけて。行ってらっしゃい」

俺は笑顔で見送る。

彼女は入口に向かって歩き出した。


「椎名、お待たせ」

「おう、じゃあ行くか」

「うん」

椎名さんは自然な仕草で和奏さんの資料の入った袋を持つ。

和奏さんも素直に渡す。

「ありがと。やだ、ネクタイ曲がってる!」

「え?マジ?直して!」

「もう(笑)イイ男が台無しだよ。こっち向いて」

和奏さんと椎名さんが向かい合う。そしてこちらも自然に、首元に手を伸ばして、彼のネクタイを直す。

「はい、できた!」

和奏さんがポンと軽く、椎名さんのネクタイを叩く。

「サンキュ!」

彼が笑顔でお礼を言う。

そして二人は、そのまま出て行った。


はっきり言ってこんなシーンは見たくない。見たくないけど、目が離せなかった。


二人が出て行き、仕事に戻ろうとすると、女性社員の黄色い声とため息が聞こえてきた。

「あ〜、行っちゃった。やっぱり、椎名さんカッコいいよね〜!」

「うんうん、わたし初めて実物見たけど、ほんとにイケメンだよね!」

「これで営業部のエースなんて、神さまは不公平だよ」

「ほんとにね。・・・はぁ」

一人がため息をつけば、連鎖のように始まった。

「椎名さん彼女いるのかな?てかあの二人って付き合ってるのかな?」

「ウワサは聞くよね。和奏さんと椎名さん同期だし」

「ほんとに仲いいもんね。さっきのなんて恋人通り越して、ほとんど夫婦みたいだったもんね」

「確かに!」

「でも、美男美女だし。和奏さんならお似合いだもん。諦めもつくよ」

そう言って、またため息の嵐。


「今は休憩時間じゃないだろ、仕事しろよ!」って思わないわけでもないが、俺だって気になる。

先程、イケメンオーラを我が部にふり撒いて、女の子たちをトリコにし、彼女を攫った(一緒に打ち合わせに出かけた)男は椎名京市(しいな きょういち)。清潔感あふれる短髪の黒髪がさわやかな、社内イチのモテ男で営業部のエース。そして、俺の愛しの和奏さんと付き合ってるウワサが流れるほど仲のいい、彼女の同期だ。

そして、向こうはどう思ってるか知らないけど、目下俺が最もライバル視している人物だ。

でも女の子たちの気持ちもわかる。

今まで、悪いウワサは聞かないし、仕事の能力もさることながら人望もある。
はっきり言って、非の打ち所がない。
俺だって女だったら惚れてるかもしれない。と思うほどのオトコだ。

「お似合い」何度も聞いた言葉だ。そうかもしれないと、その度に軽く落ち込む。

でも、まだ本人(和奏さん)の口から聞いたことは一度もないし、証拠も見たことがない。だから付き合ってないとは言えないけど、付き合ってるとも言えないわけで。

なんて、ごちゃごちゃ思ってもこの想いがどうにかなるわけじゃないし、考えても答えは一つしかでない。

諦めるなんて、選択肢を俺は持ち合わせていないんだ。



例えば、この恋が実らなくても、あなたに片思いしたこと、後悔なんてしない。


恋愛対象外だって幸せなことはあるんだから。


この気持ちに嘘はないんだ。
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