舞い散る淡いさくらの花びら
「本当に寄っていかないの?」

お店を出て並んで歩きながら名残惜しくて私はもう一度聞いてしまった。

「うん。なるべく早く帰ってきてってリマに言われているから。」

エミちゃんは残念そうな顔で笑った。
このままバスで帰るエミちゃんとは、私の住むマンションの前のバス停でさよならだ。
エミちゃんと過ごしたほんの数時間は、魔法のように、私の身体の中の水分を一滴残らず全て澄んだものに変えてくれるような時間だった。

「そういえばね、私、桐山の夢を立て続けに2回見たの。」

私は言った。
あぁ、やっと彼の名前を口に出せた、と思った。
ドキドキした。
そしてエミちゃんと会って話したかった事は、本当はこれだったのかもしれないと思った。

「え、桐山??懐かしい。夢に出てきたの?結婚したんだってね、最近。」

「え…?そうなの?」

エミちゃんの言葉はあまりに予想外だった。
まさか桐山の近況を知っているだなんて思わなかったから。

「うん。私、弓道部のみんなと今も連絡取ってるんだけど後輩が教えてくれたの。桐山、葉子ちゃんと結婚したんだって。」

「葉子ちゃんと?」

高校時代、部活に所属していなかった私の唯一の可愛い後輩だった葉子ちゃん。
私と桐山の教室に遊びに来ては、「桐山先輩、格好いい。」といつも無邪気に彼に見とれていた。
「付き合っちゃいなよ。」と、軽い気持ちで私は彼女の背中を押していた。
色白で髪がふわふわしていて子犬のように無邪気で、葉子ちゃんは私なんかよりも、ずっとずっと野球部エースの桐山とお似合いだ、と思ったからだ。
葉子ちゃんは、心から可愛い後輩だった。

「ほんとびっくりだよね。」

エミちゃんが笑った。
そして言った。

「でもね。あの頃、希緒と桐山は本当にお似合いだったんだよ。」

その時、バス停にエミちゃんの乗る小さなバスが滑り込んで来た。
シューッと音を立て、扉が開く。

「元気でね。沖縄にも遊びに来てよ。」

「うん。」

エミちゃんは、急いでハグをしてくれた。

「会えて嬉しかった。」

私が言うと、「私も!」と高校生の時と変わらない笑顔で彼女は笑った。

エミちゃんを乗せてバスが走り出す。
私はバスが見えなくなるまで手を振った。

その時ふっと目の前に、淡い色の花びらが舞い、私の足元にそっと落ちた。

<fin>
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