婚約者は野獣


「んで?」


「・・・ん?」


「何、浮気してんの?」


「え」


驚いて固まる私に


「ブッ、ハハハ」


永遠は吹き出すと同時に破顔した


あんなに嫌で仕方なかった顔合わせの場から

いとも簡単に連れ出してくれた永遠は

やっぱり王子様に見えて

それが嬉しくて

喉の奥が熱くなった


「どうした、千色」


なんでもないと言いたいのに
込み上げる涙が邪魔をして唇は開いてはくれなくて


頭を左右に振るだけで精一杯


もう側には居られないと思っていた永遠が居るだけで

涙腺を崩壊させるには十分だった


「泣くな」


「千色、大丈夫だ」


結い上げた頭を撫でられないと思ったのか
頬に流れる涙を拭ってくれる永遠の指が優しくて


泣き止んで話したいのに
涙は止まってくれなかった


大吾が週末バタバタと家をあけたことも
あの庭園で小さく頷いてくれたことも

全てこれに繋がっているのだろう

生まれて初めて

繭香以外の人が

本当は私の気持ちを分かってくれていたって信じられる

そのことも嬉しくて

泣き止みたいという思いとは裏腹に
これでもかというくらい泣き続け


挙句の果てに泣き疲れて
寝落ちするという失態















「泣きながら寝るってどうよ」


「千色お嬢は小さい頃からっす」


「そうか」


「でも、それが見られるのは
極限られた人間だけで・・・」


「そうか」


「身体の弱い千紗お嬢の為に
小さい頃から我慢ばかりしてきたんです・・・だから
木村の若、千色お嬢を頼みます」


「あぁ、分かった」






永遠の腕の中にいることに安心して


泣きながら眠ってしまった後


永遠と大吾がこんなことを話していたなんて



全く知らなかった







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