婚約者は野獣


「オイっしっかりしろ」


「ん・・・はいっ」


「んで?」


「え?」


「後は自分で脱ぐ?」


永遠の言葉が飲み込めず
自分に視線を落とすと


「・・・え、・・・は?
キャーーーーーーーッ」


帯と着物が外されて
長襦袢になっていた


「トリップし過ぎじゃねぇ?」


「は、あの、え?いつ?」


落ち着いて周りを見ると
脳内お喋りの間に永遠の部屋に入っていて

既に脱がされている状況って


・・・・・・ゔぅ

私ってヤバくない?


「疲れただろ、先に風呂な」


「・・・うん」


「そのまま居られると
俺の理性が保たねぇ」


「・・・」


永遠の言葉の意味が分かって
カーッと顔に熱が集まる


「んな顔すんな」


頭をクシャリと撫でられ
紙袋を渡された


「それ、遥華から、着替えだと」


「あ、ありがとう」


「ほら」


そう言って手を繋いだ永遠と一緒に
前回も入ったお風呂まで向かうと


「俺も入ってくっから
出たら此処で待ってろよ」


広い廊下に前回は無かった竹で出来たベンチが置かれている


「そこに座ってろ」


「うん」


そこで外された手を上げた永遠は男湯の方に入って行った


・・・私も早く入らなきゃ


カラカラと引き戸を開くと
お風呂特有の匂いがする


足を踏み入れた脱衣所は
やはり森谷の家とよく似ていて

少しため息を吐いた


「長かったな」


大きな鏡に写る自分は
髪を結い上げられいつもより濃い目に化粧されている

今は長襦袢姿とはいえ

朝から許婚との顔合わせの為に着付けられたあの菖蒲の着物にちっとも気分が上がらなかったのに


永遠の登場によって途中から和装で良かったと気分を上げてくれた


本当ならあの爬虫類顔の土岐静弥の隣に居たかもしれない身の上を思い出してフルリと肩が震え

一度自分で自分を抱きしめる


大きな籠に長襦袢を落とすと
浴場のスライドドアを開けた













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