婚約者は野獣


促されるまま部屋に入って地味子を脱ぎ捨てると
いつも夜はコンタクトを入れないけれど

仕方なく装着した


「お待たせしました」


「早かったわね」


「あ、はい」


「じゃあ座って」


と向かいのソファを指差すから
そのまま腰を下ろすと


「大吾、千色ちゃんにもお茶ね
それから夜ご飯も此処で食べるから
私の分もよろしくね〜」


・・・え?夜ご飯?


「承知」


カウンターの中の大吾に声を掛けると私に視線を戻してニッコリ笑った後で


「で、千色ちゃん」


「はいっ」


「これ」


そう言ってバッグから取り出した紙を広げた


「・・・っ」


そこにはいつぞや聞いたことのある【通達】の文字が達筆なる筆文字で書かれてあった


「永遠と千色ちゃんの婚約と
永遠の若頭襲名ね、それで」


そう言って一度こちらを見た


「はい」


「森谷の家族を呼び出したの」


「・・・え」


「本来なら結納品を持ってうちが出向くのが筋なんだろうけど
立場上・・・ね?だから今週金曜は
仕事終わりにうちに帰ってきてね
永遠には今朝伝えてあるんだけど
あの子「婚約したから一緒に暮らす」って聞かないのよ
ま、それは二人が決めれば良いんだけど
森谷の両親との顔合わせまでは筋が違うと思ってね?
まぁ、今頃永遠は父親を絶賛説得中だと思うわよ〜」


そこまで言うとフフフと笑った


今日、四時間目に一緒に食堂でランチを食べて
お昼休みは保健室でお喋りして
5、6時間目は保健室のベッドに居座り続けた永遠が
何故か放課後「また明日な」と簡単に帰ったことを
少し不思議に思っていたけど


このことだったか・・・


うんうんと一人で答え合わせをして頷く私に


「なに?なに?」


興味津々のお母さんに
今日一日のことを伝えると


「ハハハ、ウケる〜
あの子なんなの?独占欲?なに?」


お腹が痛いと言いながら
ケラケラと笑う様子を見て
これなら上手くやっていけるかも思ったのは内緒






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