婚約者は野獣


「今日散々永遠から詰め寄られてな
儂も堂本の親父に通すまで待てと
それだけ言って躱すしかなかった」


組長はそう言って渋い顔をした


「あの子言い出したら聞かないわよ」


笙子さんの助け船はどうやら通過したらしく
乗せてはもらえなかった


「森谷の両親との顔合わせの後
永遠さんと話すことにします
それまで保留ってことで良いですか?」


これぞ模範回答!とでも言うような
核心に触れない返事をする


組長と笙子さんは暫くアイコンタクトを取っているかのように
見つめ合って瞬きを繰り返していたけれど


笙子さんは突然パチンと音を立てて両手を合わせた


「じゃあ週末までこの話はお終い
大吾、ケーキを出して」


「はい」


笙子さんの仕切りで
食用花が咲き誇る花畑みたいなロールケーキがカットされると

少し不似合いな組長の前にも置かれ
そのタイミングで


「笙子、こっちへこい」


組長はいつまでも食卓テーブルから動かない笙子さんを呼んだ


「は〜い」


緩い返事で組長の隣に座った途端


「勝手なことしやがって」


舌打ちをしながら笙子さんを腕の中に閉じ込めた


「・・・っ」


驚いて顔を背けなきゃと思うのに
野次馬根性なのか不躾な視線を外せない私の前で


チュッ


組長は笙子さんのオデコに口付けた


えぇーーーーーーーーっっ


イキナリ極甘なんですけどっっ

見てるだけでこっちが赤面してしまう

兎にも角にも台風のように現れた二人は
私と大吾と後藤さんなんて見えないかのように

ベッタリくっついて
ケーキを食べさせ合い

甘い雰囲気を振り撒きながら帰って行った










「大吾・・・疲れた」


「あ、あぁ」



放心状態のまま

いつもより早くお風呂も済ませ

いつもより早くベッドに入った私は


バッグの中でマナーモードのまま忘れていた携帯電話が

充電を使い果たす惨事になっていたのに気づかないまま


翌朝を迎えるのだった






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