婚約者は野獣



「はい、出来上がり」



唇を滑っていた紅筆が外されると未来さんがニッコリと微笑んだ


「千色ちゃん綺麗よ」


笙子さんは感慨深そうに頷いた


「ありがとうございます」


本当なら支度は森谷の親の仕事
それを“もう婚約済みだから”と
永遠の両親が買って出てくれた


「良いのよ、もう家族でしょ」


三ノ組の姐さんは懐が大きくてステキ

私が初めて憧れを抱いた人になった


「後は、これね」


笙子さんは濃紺のビロードの箱を手に取ると
「はい」と渡してくれた


「・・・ん?」


なんだろうと考えるより先に


「木村に代々伝わる指輪よ」


未来さんが答えてくれた


「そうなの、デザインは変えたのよ?
昨日リメイク完了したからね
ギリセーフって感じかな〜」


フフフと笑った笙子さんは


「本来なら相手からプロポーズと共に受け取るんだけど
木村は代々、姐から若姐へ渡すのが慣しなの
だから跪かないでごめんね」


ビロードの箱のまま渡した訳を話してくれた


「いいえ、嬉しいです」


年代物の箱をゆっくり開く
中から現れたのは大きな翡翠が付いた指輪だった

大きな翡翠に負けないくらい
その石を受け止める台座は綺麗な細工が施されている


「・・・っ、すごい」


「でしょ〜」


「初めて見るかもしれません」


引き込まれるように視線を外せなくて
見つめていると


「皆さんお揃いで」


襖の外から坂下さんの声がして
一気に現実に引き戻された

少し不安になる私と違って


笙子さんは姿見の前で半回転した


いつも和装の笙子さんも
今日は勝負服だと笑わせてくれるほど
気合の入った着物らしい


それに反して未来さんと遥華さんは
派手過ぎず二人の魅力を引き出す洋装で

未来さん曰く・・・
着物だと脚が崩せないのが嫌らしい


「さぁ、行くわよ」


その声に合わせるように襖が開けられた











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