婚約者は野獣
一ノ組の若頭とその側近が上層階に住んでいるらしいマンションは
コンシェルジュが24時間常駐する豪華な造りで
社宅としてたった数万円で借りられた部屋は
凱用の部屋もある3LDKだった
「本当はいくら?」
電池一本さえ届けてくれる
充実のサービス用冊子を捲りながら
本当に社宅用なのかと溜息を零した
私の部屋は5階で低層階用エレベーターにしか乗れないけれど
挨拶で訪れた同じフロアの住人は
セレブ感を感じさせた
なにより
「ちぃ、これはどうする?」
私付きの凱は父の命により
ほぼ私の部屋で過ごすことになった
・・・幸せ過ぎる
どこか浮き足立った私の気分は
まるで同棲しているかのような状況に
酔っているだけなのかもしれない
。
引越しも終わって数日後の入学式
通勤の為に自転車に乗る私の後ろから
同じように自転車でついてくる凱
「今夜は二人でお祝いしような」
最後の曲がり角で離れる寸前聞こえた凱の声に
泣き出しそうになる気分を誤魔化すように大きく頷いて見せながらペダルを漕いだ
正門前で自転車を降りると
[入学式]の立て看板を眺めてから
ガードマンの立つ門を潜った