婚約者は野獣


入学式での自己紹介も簡単に終わり
新入生の退場と共に小崎先生と保健室へ戻ってきた



「お疲れ様〜」


そう言ってコーヒーカップをテーブルに置いてくれた小崎先生に小さく頭を下げた


「俺は養護教諭一種免許だけど
丸山先生は二種なんだよね?」


「はい」


「ま、その分資格があるから
即戦力になるのか〜」


「実務経験はありませんが」


私の心が狭いのか?
小崎先生の言葉が少しずつ癪に触る

それをアンガーマネジメントとばかりに
カウントしながらゆっくりした呼吸で聞き流す


資格が“一”と“二”なら“一”の方が上とでも言いたいのだろうが

そんなこと私には全く興味もなく


広い保健室の中でなるべく“コイツ”と関わらないよう

必要以外の私語は慎むことにしようと心に決めた


ま、有り難くコーヒーは頂くことにして・・・


保健室の隅に置かれた
ロッカーの鍵をポケットから取り出すと

今朝、自転車のカゴを占領した紙袋を取り出した


式典用のスーツに合わせたパンプスを脱いで

持参した踵のあるサンダルに履きかえる

スーツの上着をハンガーにかけ
支給された白衣を羽織った

イケテナイバージョンが
白衣を羽織っただけで少し締まって見える


・・・気のせいか?

気のせいだよね・・・


心の中でフフフと笑うと


小崎先生と向かい合わせのデスクに戻った

向かい合わせとは言っても
私の席にはデスクトップパソコンがあって
モニターの高さで小崎先生の顔はギリギリ避けられる

デスクが横並びじゃないことに
少しホッとして

紙袋の中から
筆記用具とノートを取り出した


首から下げた名札には
名前とICチップが内蔵されていて

出退勤や特別教室の鍵の役目
食堂の支払いにまで使えるらしい


・・・とりあえず此処に慣れなきゃね


新しいノートに折り目を付けた






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