婚約者は野獣


「本当は千色を応援してやりてぇ
でも・・・今日、親父から連絡あって
そうも言ってられなくなった」



「・・・?」


「顔合わせの日が決まった」



大吾の声に涙が止まった


「・・・い、つ?」


「今週末の日曜日」


「え」


今日は木曜日で・・・
なんでそんな急に


「千紗お嬢が許婚を辞退した」


「・・・は?」


それって・・・


「凱と結婚するらしい」


「じゃあ凱が森谷を継げば良いじゃない」


苛々する気持ちが声を大きくさせる


「凱は組長になる器じゃねぇ」


「ねぇ、大吾・・・私って
どこまで千紗に振り回されるの?
千紗の所為で私の人生最悪だわ」


「千色、滅多なことを言うもんじゃねぇ
千紗お嬢は・・・」


「だから?またそれ?
身体が弱いって都合が良いのねっ
身体が弱いと許婚を辞退できて
身体が弱いと好きな人と結婚出来て
身体が弱いと妹に嫌なことを押しつけられる!」


「千色」


感情に任せて大声で叫んで
両手で顔を覆うと
悔しさが込み上げてきた


「千紗なんか大っ嫌いっ」


今までどれだけ辛くても
どれほど悔しくても

『嫌い』だけは口にしなかったのに
永遠のことで揺れた感情は

上手くコントロール出来なくて

これまでを思い出すように吐き出した


「千色はよく我慢してきた」


すぐそばまで来て頭を撫でてくれる大吾の声も震えていて

想いを合わせてくれているんだってホッとする


「本当は皆んな分かってんだ
千色が我慢してることも全部」


それならなんで?って分からない気持ちに嗚咽が止まらない


「千色」


「・・・っ・・・ん」


「今日はこのまま寝ろ
明日、早めに起こしてやるから」


大吾はフワリと抱き上げると
寝室まで運んでくれた

悔しくて眠れそうもないと思っていたのに

頭を撫でてくれる大吾の手に
波立つ気分もいつしか落ち着いて

微睡みの中へと落ちた













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