幻惑
18
「結花里、仕事 大変なの?」

ゴールデンウィークも終わり。

翼と暮らし始めて四カ月が過ぎた頃から、私は無口になっていった。
 
「ううん。大丈夫。」

笑顔で答えたつもりだけど。

無理に作った笑顔は、顔を歪めただけだった。
 
「最近、結花里 話さないし。あんまり笑わなくなったから。」

心配そうに、私の顔を覗き込む翼。
 
「そんなことないよ。」

私は、短く答えて、食器を片付ける。
 

「結花里、休んでいて。今日は 俺が洗うから。」

私を座らせようとする翼の腕を、払い除け、
 
「大丈夫。私がするから。」

と強い口調で言い返す私に、翼は驚いた顔をする。
 
「ごめんなさい。」

そう言った私の目から、涙がこぼれる。



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