幻惑
「結花里。」と言って、言葉に詰まる聡美。

私は、ハンカチで顔を拭ってから
 
「何だか、疲れちゃって。」

とポツリと答えた。
 
「仕事、大変なの?」

私が話しやすいように、聡美から聞いてくれる。
 
「ううん。そうじゃなくて。翼君のこと。奥さん、まだ離婚届 書いてくれないの。」

私が言うと、聡美は驚いた顔をする。
 


「えーっ。それで増渕さんは?どうしているの?」

と少し声を高めて聞く。

私は、また首を振り
 
「何にもしてないわ。」

と言う。聡美は、少し黙って考えてから
 
< 182 / 263 >

この作品をシェア

pagetop