幻惑
久しぶりのリビングは、何も変わっていない。

広々としていて明るくて。

心が安心感に包まれる。

この家で育ったことを、私は改めて実感していた。
 

「結花里、こんなに痩せて。青い顔して。」

母は、紅茶を淹れると 私の横に腰を下ろした。

私の手を、自分の掌で包み込んで言う。
 

「ママ。本当に、ごめんなさい。」

私は俯いたまま、小さく言う。
 

「結花里、すごく頑張っていました。家のことも、ちゃんとやっていたし。先月から仕事も始めて。本当に、よくやっていました。」


聡美が母に言うと、母はフッと笑って頷く。
 

「そうよね。ママは、もっと早くに、結花里が音を上げると思っていたわ。」

と言った。
 
「翼君、優しいから。だから辛くなかったの。でも、ずっと離婚が成立しなくて。」

私の目から、涙がポロポロと流れる。
 

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