触れたい指先、触れられない心

「その……付き合っていた人に捨てられたんです。他に女の人がいて、わたしは振られました」
「…………」
「霞さんは、わたしだけを見てくれますか?」
「一度将来を誓った仲だ。一生守るつもりだが」


 霞さんはわたしの目を真っすぐに見て、言った。
 この人は、嘘なんてつかないんだろうな……とっても綺麗で曇りのない目。




「で、その男を殺せと?」




「へ?」

 突拍子もなく放たれた一言に言葉を失った。
 こ、ころ……え……?




 
「なっ! そ、そんな物騒なこと考えてないですよっ!」
「そうか」


 そうか。って……霞さんは冗談がきついなぁ……。
 びっくりしたー……殺すだなんて。


「ここを出るまでの関係とはいえ、女とこんな長時間二人でいたことは初めてだ」
「え……ここを出るまでだけ。って……?」


 この婚約って、ここを出るためだけの……?
 ここを出たら他人に戻るって事なの……?


「学生の女をこれ以上振り回すつもりはない」


 霞さんは真剣な表情で断言した。
 振り回すって……わたしのせいでこうなってしまったのに。


「そんな……」
「第一、そんな子供との婚約など父の方が反対する」



 む……子供って……
 


「……わかりましたよ。ここを出るまで婚約者で、高校生ってことは隠して、霞さんのお父さんに認めてもらえてここを出れたら、婚約は解消ってことですね……?」
「面倒だが、頼む」


 なにそれ……
 霞さんのお嫁さんになれるって少しでも期待した自分がバカみたい。
 そんな簡単に恋愛がうまくいくわけないよね。


 好き同士でもうまくいかなかったのに……



 こんな成り行き任せの結婚がうまくいくわけ……
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